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勉強が嫌いな子も、適切な手助けをすれば集中して勉強し、確実に学力を伸ばすことができます。「勉強がうまくできないとしたら、間違った勉強法をさせてしまったせいです」と話す教育クリエイターの陰山英男先生に、学習に対する大人のありがちな勘違いや、親ができる手助けについてお聞きしました。
「ウチの子、集中力がなくて…」親御さんのそんなお悩みがよく聞かれますが、そもそも「集中」とはどういうことでしょうか?
「集中」とは、あるひとつの課題に対して、脳のすべての力を向けている状態です。
脳の全部の力を向けるわけですから、何か別のことが気になっていたら集中は高められません。脳に課題以外の余計な仕事をさせない状態にできた時、本当に集中することができます。
陰山先生は「“おもしろ楽しく”というのが集中の姿なんです」と表現します。「まじめにやりなさい」とか、「失敗してはいけない」などの緊張を与えてしまうと、余計なノイズとなって楽しむ妨げになり得ます。
金メダルをとった直後に開口一番「気持ちいい!」と言えたオリンピック選手は、競技以外のことは何も考えずに気持ち良く楽しんで「集中」した結果、最高のパフォーマンスが出せたと考えられます。集中している時、脳は究極のリラックス状態にあるのです。
過度な期待、抑圧、緊張感などのストレスは、気を散らすノイズになる!
子どもが勉強に集中するためには、取り組んでいる課題以外のことを気にさせないようにすれば良いことがわかりました。今すぐ、課題以外のことでいちばん気になることを排除してあげましょう。学習の最大の障害は、「できない」と感じるストレスです。大人でも「難しい」とか「面倒だな」とか思いながら嫌々やることには時間がかかるのではないでしょうか。
いちばん大切なことは、簡単な課題に取り組ませることです。絶対にできると思うことであれば、「嫌だな」という邪念なく取りかかることができます。いったん取りかかってしまえば、スラスラできるわけですから、その課題に脳の力を全部向けて取り組むことができます。つまり「集中状態」に入っていけるわけです。
「子どもがつまずいているところを見つけるのが親の役目です。たとえば小学校高学年でも、算数が苦手だったら、思い切って1年生まで戻った課題を与えてあげる。最初は嫌がるかもしれませんが、1年生のことがわからないから5年生のことができないとわかると、子どもは安心するんです。」
「嫌だ」と少しでも思った瞬間、集中は途絶える!
集中を高める学習には、2つのキーワードがあります。前述のように課題が「簡単」であること。そしてもうひとつ、「高速」で取り組むことです。簡単な課題を高速で、確実に満点が取れるようになるまで繰り返すことが重要。これはいわば、スポーツにおける筋トレのようなものです。数字と言葉を使って脳を鍛えましょう。
方法1:数字のトレーニング 百ます計算
陰山先生は「百ます計算」を理想的な学習法として推奨しています。1ケタの足し算からさまざまなレベルの問題があるので、お子さんが「できて当たり前」と感じる問題から始めましょう。その際、必ずストップウォッチで時間を計りながらできるだけ速く解かせることで問題に夢中になっていき、集中状態を高めることができます。
方法2:言葉のトレーニング 漢字の高速暗記
「10個の漢字を3分後にテストする」というように、適度な個数の漢字の課題を与えて短時間で覚えるよう促しましょう。1度で全部覚えられなくてもOK。全部答えられるようになるまで何度も、答えを見て短時間で覚え直します。練習する回数は本人次第。これを繰り返すと、漢字を「覚える」ことに集中し、小学校1年生でも2~3回書けば覚えられるようになっていくといいます。
「100個の漢字から10個がランダムに出題されるのではなくて、問題も答えもわかっているテスト。10個しかないのですから、覚えようと思えば覚えられるんです。『10回練習しなさい』などと回数を決めて書き取りをさせるのはやめましょう。覚えることよりも書くことが目的になり、脳が“だらだら勉強”を覚えるだけで逆効果です。」
集中できない子は、集中した経験がないだけ。こうして集中を毎日積み上げていけば、みんな集中力を身に着けることができます。
時間さえ長ければ良いのなら、注意力散漫でだらだら勉強するだけ!
簡単な問題を速く解くことで、子どもたちは集中できるようになると同時に自信をつけ、勉強が楽しくなり、やる気につながります。
そして、100ます計算や漢字などの基礎学習で問題の処理能力を高めていくと、知識を習得する力(=学習能力)が身についていきます。体に筋力をつけてこそ、走る・泳ぐ・跳ぶ・投げる・打つといった運動スキルが向上するように、基礎的な学力がつくと、応用力も確実に高まるのです。
陰山式の学習法を取り入れた小学校では、「勉強時間が短くなるほど成績が上がる」と、親御さんが驚くのだといいます。長時間勉強する子が偉いというのは、勘違いです。同じ宿題に1時間かかるのと30分でできることを比べたら、30分で終わる方が良いことがわかるでしょう。
「たくさん勉強させれば成績が上がるという思い込みから脱してください。自分の集中力に気づいて、集中を自在にコントロールできるようになった子どもは、自覚的に成長を始めます。」
プロフィール
1958年兵庫県生まれ。1981年、尼崎市の小学校教諭に着任。1987年、「百ます計算」を考案した岸本裕史氏と出逢い、1989年、反復学習で基礎学力向上を目指す「陰山メソッド」確立して脚光を浴びる。2003年、尾道市立土堂小学校校長に全国公募により就任。2006年、立命館大学教授及び立命館小学校副校長に就任、その後校長を2016年まで務める。 文部科学省中央教育審議会特別委員や内閣官房 教育再生会議委員、大阪府教育委員長などを経て、現在陰山ラボ代表として全国で教育アドバイザーとして活躍している。